文学青年保存館

2023 7.25 ブログの更新を停止しました

こんな湿った部屋で朽ちたくない

 詰んでいるのだ、どうしようもなく。
 熱病に浮かされて自殺企図、厭世念慮をする人はこんな気持ちなんだろうなと彼は思った。
 新年8日目、時刻は深夜3時。部屋には暖房が入っていて、加湿器も点いていて、コタツのツマミは強になっている。
 ディスプレイに映るメモ帳は夜間モードのオレンジに染まり、場末の配信者の録画をラジオに、彼はキーボードを叩いている。これ、、を書いている。
 気分は最悪だった。喉が痛く、鼻が詰まり、目はしぱしぱして、微熱がある――風邪をひいているのだ。浅く吐く息一回ごとに、身体から体力が失われていく。奪われた体力の行き先は、おそらくはライノウィルスであろうと思う。この表現が形而上のものなのか形而下のものなのか、判断できる状態ではないのが少し惜しい。
 一般論として、風邪をひいたときは速やかに休養をとるべきである。事実、彼もそうしようとした。冷蔵庫にある黄色いアクエリアス(ビタミンがたくさん入っているやつ)を飲み、無理してレトルトのカレーを流し込み、病院でもらった効きすぎる嫌いのある薬を飲んでから、冷たく湿るベッドにもぐりこんだ。
 そして、かれこれ数時間が経ち――彼は未だ眠れていない。
 それもそのはず、鼻呼吸ができなかったからだ。彼の平時の寝付きはお世辞にも良いとは言えないが、目を閉じ鼻呼吸をしながらあれこれ空想をしていれば、いつのまにか寝ていることくらいはできた。しかし鼻呼吸が阻害されるともう無理だった。彼はそのレベルで睡眠弱者だった。
 加えて言えば、風邪の各種症状――洟と熱感と間欠する咳が睡眠への導入を致命的に妨げていた。
 彼が横たわる冷気を割き、照明と暖房と加湿器とコタツとPCの電源を入れ、何やらメモ帳に文章を書き始めた理由が、これで理解できたはずだ。
 しかしある諸賢は、上述した文章の中に目敏く矛盾を見つけるかもしれない。曰く、「なぜ効きすぎる薬をもらったと言ったのに、その薬が効いているように見えないのか」と。
 確かに、貰った薬のひとつ、カルボシステイン(去痰薬)は非常によく効いたのだ。透明な洟を滂沱のように、長時間、ストレスフルに放出させるという点に於いて。しかし鼻水自体を止めてくれるはずの、フェキソフェナジン塩酸塩(アレルギー止め)は期待された役割を全うしなかった。
 俺と相性が悪かったのか? アクエリアスに入っていたマグネシウムが効果を低減させてしまったのか? それは分からない。どうでもいいことだ。どうでもよくないことは、現時点での俺のクオリティ・オブ・ライフのスコアがとても低いものであるということ。
 まじ新年そーそー風邪ひくとかやってらんねーわということ。

 この世界に不眠症は存在しないと言う人がいる。
 極限状態まで不眠なら、どんな状態であれ身体は勝手に睡眠をとる。決められた時間に睡眠をとらなければならず、かつそれができない現代人にのみ、不眠という症状は現れる……とかなんとか。
 ついでにいうとこの理論で「寝なくていいや」と開き直ると、それに起因する鬱病の解消に効果があるらしい。そういう行動認知療法があると聞いた。なるほど。で……
 俺は風邪ひいてるから寝て休まないといけないんだが!?
 睡眠サイクルが崩れたら自律神経イカれて全身が不定愁訴に包まれるんだが!?

 やってらんねーよ世界。日本、消えろ消えろ。厭世厭世、詰んでる。
 アレなサイトでアニメ見るか積本崩すか……いっそ、クリアしたくなくて止めたゼノブレ2を起動しようか……いや眼精疲労のせいで止めたんだっけ……?