ウラブタの上

ハンマーソングなしの痛みの塔

敗者敗走のフルチューン

 僕はミュータントだ。世界を滅ぼす巨悪である。

 幼いころから、季節の変わり目には120%の確率で風邪をひいていた。これは1度かかり、治ったあとでもう一度違う風邪にかかる可能性があるということだ。
 そんな僕に、医者はこれでもかと抗生剤を処方した。セフェム、クラリスニューキノロン
 すわ風邪とみるや二次感染の予防にもなるとバカスカ出された。そのころはまだ薬剤耐性菌が問題になっていなかったのである。
 おかげで僕は今日まで生きているわけだが、同時に僕の腸内細菌も甚大な被害を被ってきた。
 いまもって盲腸を摘出したことと、倫理のカケラもない人間に育ったことは、これら文明の利器によるものではないかと訝んでいる。

 ――曰く、腸が弱いのは細菌叢のバランスが乱れたから。
 近ごろの研究では腸内細菌が人間の性格に影響を及ぼすとか云われている。

 真偽のほどはどうでもいい。ただ、なんにせよ、僕を揺籃したのは社会ということになる。
 病弱な人間を、社会は見捨てなかった。
 でも病欠するたび、心は少しずつスレていった。
 よって病床から見渡す世界が、いつだって僕の立脚点となった。

 世界が憎いですか? いいえ、どちらかと言えば好きです。
 生まれて良かったと思いますか? はい、人生を楽しんでいます。
 仕返しをしたいと思ったことはありませんか? いいえ、今どき天に唾吐くバカは居ません。

 でも、僕はミュータントだ。
 今まで何度、変異した菌を拡散しただろう。
 でも、僕は巨悪だ。
 今まで何度、悪意で他者を傷つけただろう。

 僕は現在、社会の片隅で歯車になっている。動いているのか、動けているのかもよく分からないが、まぁ、とにかく何とかやっている。
 僕のような歯車は、世にどれだけあるのだろう? 今にも外れそうなもの、右から来た力を左に伝えるだけもの、逆回転で抵抗するもの、動くフリしてお茶を濁すもの――。
 それら幾千のギギギアルに対し、僕が掛ける言葉は常にひとつだ。
 少なくとも僕は、僕と同じような回り方をしている歯車には、優しくしてやろうと思っている。

 疲れたら休んだほうがいい。