文学青年保存館

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耳鳴り1年生

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 あれは半年ほど前のことだった。
 イヤホンにキーンとしたノイズが乗ってるなと感じ、故障かなと思い耳から外すと、
その音がまだ響いていた。

 愕然、という形容詞を人生で初めて使った瞬間かもしれない。
 その音は静かな空間で鳴り続け、俺から安眠を奪った。

 それから色んなことを試した。
 難聴を疑い耳鼻科に行き、スマホ首を疑い接骨院に行った。
 しかし症状は一向に改善せず、精神的にどんどん追い詰められていった。
 一時は隴西の李徴と見紛うほどの炯々とした眼光で自死をも見据えた。

 それから睡眠薬漬けの日々が始まった。
 当初もらったゾルピデムは効果が強すぎて反跳性不眠になり、日中の耳鳴りはどんどん強くなる始末。
 これはマズいと依存性のないベルソムラを処方してもらうとコレが奏功し、
以後ナイトレストとアシュワガンダのサプリを合わせて飲めばどうにか寝付けるようになった。

 眠れるようになってからは、何か作業をしていれば耳鳴りは気にならなくなった。
 しかし夕方ごろから音は徐々に強くなり、眠ろうとする頃にちょうどピークになりやがる。

 そして――今に至る。

 直近の発見は、夕方ごろに三環系の抗うつ薬を飲むと音が気にならなくなること。
 そのまま夜にベルソムラを飲めば眠ることはできる。
 しかし日中ふと気づくと鳴っている耳鳴りにはQoLを下げられるばかりだ。

 こうなった原因はなんとなくだがもう分かっている。
 かつて眠れないからと母がもらっている精神薬を勝手に使っていた時期がある。
 リボトリールやらフルニトラゼパム……この薬剤が原因だったのではないか。

 これらは脳を強制的に鎮める薬なので、その結果クスリなしでは脳が静まらなくなった。
 それが耳鳴り――否、脳鳴りとでも言うべき今の症状なのではないか。

 とすれば、現状は進退窮まっている。
 今飲んでいる三環系抗うつ薬はまさに脳を鎮めるクスリであり、
これを飲んでいる限りは症状は好転しない。
 しかし、これを飲まねば耳鳴りによって生活は破壊される。
 そして抗うつ薬を常用すれば、将来的に悪い影響を及ぼすという声もよく聞く。

 自業自得といえばその通りで、反駁のしようもない。
 だからせめて、俺を反面教師にしてほしい。

 クスリには頼るな。眠れないなら眠れないままにしておけ。
 この世界に不眠症という症状はない。放っておけばいつか必ず眠るのだから。

 ちなみに、抗うつ薬――アモキサンにはもうひとつ副作用がある。
 抗コリン作用によって目が乾燥したり、便秘になったり、便のキレが悪くなったりする。
 耳鳴りに比べれば大したことはない副作用だが、これも結構QoLを下げてくる。

 ストレス社会に斃れそうになっている人類の諸君。
 あなたがまだ静謐を感じることができているのなら、それは至宝です。
 静かな夜に眠れないことは、僕がいま、何より欲しいと望むものです。

僕らがただ自由でいられたあの頃は遠くて
無邪気な笑顔だけじゃ この頃は過ごせないけど
                   ――浜崎あゆみ「progress」