ウラブタの上

箱の中の神さま

『涼宮ハルヒの直観』谷○流米澤穂○説

 

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 本当に面白いと思う小説は、読むのが惜しい。
 楽しい時間が終わってほしくなくて、1ページ繰るごとに内容とは関係ない焦りを感じる。

 ハルヒもこの焦りを感じられる貴重な作品だった。
 ……驚愕までは。

 何年待ったか思い出せないほどの年月が流れているが、ともかく新刊である。
 俺が史上3番目に読んだラノベは、さて今回、どんな景色を見せてくれるのだろう。

 というワケで最初の掌編「あてずっぽナンバーズ」を読んだわけだが……。
 シチュエーションラブコメディだこれ!

 何がびっくりしたっていきなりラブコメが始まって終わったこと。
 普通なら長編の中盤あたりに出てきそうな濃厚接触がなんの前フリもなく行われている。

 いや前フリはちゃんとある。キョンお得意の韜晦である。
 ちなみに韜晦しているのはキョン自身のツンデレであり、読者にバレている時点で韜晦も何もないのだがそこはあえて言及しないでおく。

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 妙な予感はしていた。
 まずこの表紙のハルヒの顔。一瞬誰かと思った。売○?
 そこから繰り出される、ハルヒの女性。
 なるほど。これが今日まで雌伏していた谷川の渾身の一撃だとすれば、俺たちは白旗を以て応える他にない。
 あっぱれである、と。

 続く短編「七不思議オーバータイム」は往年のノリを思い出させてくれるSF(すこし不思議な)話かと思いきや、壮大なギャグ話である。それもツッコミ役不在の。
 二宮金次郎像の成分比率が変わることの何が七不思議なんだよw

 古泉長門はまだしも、キョンまでもが大真面目な顔で珍妙な七不思議を粗製乱造していく。
 正直この辺のキレは微妙だが、この短編の意義は新キャラ「T」を当て馬に利用しキョ✕ハルさせるところにあるので問題はない。

 むしろ、有耶無耶になっていたハルヒの童心が再び描かれていることに注目したい。

 昔読んだどっかのブログに次のような記述があった。
 まっくろくろすけは子供のランダムな発想の下でしか存在できない。
 大人は科学的な説明(スス汚れ)に落とし込んでしまうから会えないのだ――。

 古泉は伝説上の鬼の行動を人間の所業と断じて憚らず、
あの愛くるしい朝比奈さんまでもが、二宮像が動く理由付けに「内蔵アクチュエータがあれば」と言う。
 SOS団の宇宙人、未来人、超能力者はとんでもない石頭なのである。

 一方、キョンだけは二宮像の成分にオリハルコンをねじ込んだり、教室にエアコンがつけばいいな、等と自由な想像の余地を少しだけ残す。
 これがキョンの主人公たる所以であり、ハルヒに選ばれ続ける理由、なのだろうが……。

 さすがに話の構成が雑すぎないか?
 最初は七不思議がすでにあることにして煙に巻こうとしていたが、4人で既に考えたからそれを見せる流れ……になって、しかもハルヒがそれを受け入れる……?

 ま、まぁ問題はない。重要なのはハルヒが「今回の発案に加われなかったことを悔しそうにしている」ことであり、その描写が「ワンダーを信じない3.5人に対しショックを受けている」と読み取れることだ。
 (キョン中二病を卒業してしまったので便宜上0.5人として扱う)

 新キャラのTも七不思議も放置し、最終的に恋愛という暴力装置に結びつけたオチで畳んでいるのもポイントが高い。
 こういうのでいい。しょーもない話にもハルヒ節は十全に出る。

 はずなのだが……残る紙幅を埋める「鶴屋さんの挑戦」はどうにも面白くない。
 なんでだろ……?
 キョンの一人称を読みに来てるのに、鶴屋さんの文章は読みたくない?
 話の題材がそもそも面白くない?

 なんつーか……冴えない古典部の面々を見てるような気分になった。
 どうにも今回の『直観』からは、米澤○信の『氷菓』みを感じる。
 だからこの記事のタイトルを両者は同一人物だとする野獣先輩説にしたんだけど。

 謎を前に四苦八苦するSOS団――は面白い(だろう)けど、
とくに苦しんでるわけでもなかったしな。
 うん、オイシイ要素がちょっと少なかったからかもしれない。

 俺としては当意即妙なやりとり(例えば終盤のキョン長門のものとか)が沢山あればそれで満足できた。
 けど、思ったよりもそういうキャラの掛け合いが少なかった――のが、最後の話があまり面白いと思えなかった理由なのかもしれない。

 もちろん、鶴屋さんの問題は解けませんでした。
 個人的にはタケナオというのも納得いかない。タカナオならいくらでも見聞きするけど……。

 ということで、涼宮ハルヒの直観を読み終えた。
 いくつか問題はあれど、非常に良い読書体験であった。
 俺が耳鳴りに苦しんでいなければもっと楽しめたかなあ。