文学青年保存館

2023 7.25 ブログの更新を停止しました

秋のひろむと夜散歩

 昭和記念公園に向かう道すがら、車内でウォークマンを聞いていた。
 リクライニングを倒し、目は閉じて、音楽に耳を傾ける。こうでもしないと酔う。俺はブランコでも酔う。

 Aimerのアルバムは耳をすり抜けた。
 いまいち心の温度が合わない。歌詞カードが無いから英語もよく分からない。
「Cleave your way again」は聞き取ることができたが、
「misty moon」と「croon」は無理。「Sail away」も「Sail your way」だと思った。

 amazarashiのアルバムは耳にこびりつく。
「アオモリオルタナティブ」を聞いたあとに「令和二年」を聞いたら笑ってしまった。
 いつもの調子で「大丈夫」と歌ったら、コロナ禍が全然大丈夫じゃなくて「僕に嘘をつかせた」。
 おおえーえーえーえー令和二年。

 3時間弱で昭和記念公園に着いた。
 夜の帳は下りている。今日は日本庭園のライトアップを見に来たのだ。

 しかし――人がとにかく多い。
 2年ぶりの開催で、土曜日ということもあってか、内部は人でごった返していた。
 その人いきれを前に、俺は既にここへ来たことを後悔しつつあったが、付き添いの都合上、入らない訳にもいかない。

 ライトアップされている展示物に、特段目を引くような物は無かった。
 あるとすればマンホールを隠すために置かれた枯れ竹とか、
随所に張られたクモの巣が光を照り返す様とか、そういう所に風情を感じるくらいである。

 周囲の人々はこの庭園をどう楽しんでいるのだろうか。
 見回すと、色んな人がいた。若いカップル、子供連れ、スマホを宙空に向ける親、ダダを捏ねる子供、カメラを持った男たち――。
 なるほど彼らは目的を持ってここに来ているらしい。今日の体験を何かに変えることができるのだ。
 彼らが立ち止まり、行列のできた先に、景勝地以外の何があるのか、俺には分からない。

 同行者と分かれ、俺はひとり休憩所で待つことにした。
 しかし木製のベンチはすべて占有されていたため、仕方なく軒下に出る。
 竹で編まれたオブジェの下、かじかむ手で慣れないスマホのキーを押す。
 
 ライトアップが眩しかった。
 とにかく光量が多くて、しかもこっちを向いている。
 正確には竹のオブジェを照らしているのだが、ややもすると、それは俺への攻撃なのかもしれない。
 ある年齢になるまでに一定の人間関係を築けなかった者に対する叱責、あるいは通過儀礼としての罰ゲームだ。
 
 イヤホンをしているから、周囲の音は聞こえない。
 騒がしいのは耳の奥で歌うぐるたみんの声だけ。

 あばら家の前で佇む俺に、カメラが向けられた。
 なるほど、俺は名も知れぬオッサンのSDカードの容量を圧迫するために産まれてきたらしい。
 素晴らしい被写体を俺の存在が邪魔している。
 サーチライトを浴びたルパンのように、俺は転び出るように下手側にハケた。

 足して1以上になる付加価値を持つ者に優しい場所。
 日本庭園の入場料は1000円。公園に入るのに別途450円がかかります。