***の根本に腫れ物ができた
エアコンのリモコンには現在気温を教えてくれる便利なボタンが付いている。
「お部屋の温度:27℃ 外の温度:-1℃です」
機械音声の平坦な声がして、関東が凍ったことを知る。
現在時刻は深夜3時。平時なら寝ている時間だが、今夜は寝付きが悪かった。
なんというか、痒い。
***の根本に出来たおできが治りかけで、治りかけの傷というのは大抵かゆい。
仕方が無いので傷口にドルマイコーチを塗り、その周囲にムヒアルファEXを塗る。
激痛が走る――と思いきや、そこまで痛くなかった。清涼感が心地よい。
常夜灯を消して目を閉じるが、眠れない。意味もなく足の指を開いて閉じて、これはダメだと判断した。
パソコンを立ち上げてキーボードを叩く。
今の俺に時系列が追いついた。
ここ数日、根本に違和感があった。
皮膚の中のフォアダイス――脂肪のひとつが、少し大きくなっていたのだ。
とはいえ対処しようも無いので放置していたら、ついに1センチほどの炎症を起こした。
中心部は6ミリほど盛り上がり、山のようになっている。痛い。
長年の経験で導き出した結論は、十味敗毒湯を飲むことだった。
皮膚疾患に効くこの漢方は我が家に大量の在庫が存在する。妹が薬局から無限に貰ってくるからだ。
崩壊している食生活を是正するためにビタミンサプリも摂取し、睡眠弱者を押して熟睡できることを祈る。
これでよほど運が悪くなければ、敗血症になることはないだろう。
2日経つと、患部がぶよぶよしてきた。膿が溜まってきたのだろう。
そこで取り出しましたるは裁縫に使うまち針。コンロの火で針先を炙って殺菌消毒をする。
膨張した箇所に針を這わせると、一瞬で皮膚が破れた。
淡い黄色の膿が飛び出し、赤黒い血が一筋、メッシュのように差す。
慌ててティッシュで拭き取ると、膿の中におできの芯を見つけた。
一挙に安堵する。これで粉瘤みたいに炎症が再発することは無いだろう。
あとはドルマイコーチ――市販の抗生物質とステロイドを塗るだけだ。
ソシャゲのデイリーを終わらせ、配信にクソコメを残し、入浴して、寝る段になった。
風の音がとんでもない。10年に一度の寒波が来ている。
俺としても、トイレが冷凍庫になっているのは始めての経験だ。
この気温で何万何億の生物が死に絶えるのだろう。
階下から古い加湿器を持ってきて、冬のあいだ点けっぱなしのエアコンに重労働を強いる。
炭酸の抜けた炭酸水でアシュワガンダを流し込み、水分補給を終える。
深夜1時にベッドに入り……深夜3時まで苦しんだところで、冒頭のシーンに戻る。
かゆい。
寒さ対策でいつもより厚着をしていたから、汗ばんでしまったのが原因かもしれない。
照明の明度を最低まで落とし、薄暗い部屋でブログの記事を更新する。
現在時刻は3時半。
寒暖差28℃の空間に、きみコの声が響き続ける。