とあるクラメンの述懐
どうしてそんな質問をしようと思ったのか、いまもって見当がつかない。
俺は基本的に逆張りクソ野郎だが、公共の場においては読める空気は読む方だ。
きっかけはクランの議事録に、2つほど気になる記述があったことだった。
①クラバト用の育成をすることがクランの理念である
②どのような基準でブラックリストを運用するか
①は、まず驚いた。4箇月ほどこのクランに籍を置いているが、そんな理念は寡聞にして聞き及んでいなかったからだ。
②に関しても思うところがあったので、次のような質問(意見)をした。
僕は今までアリーナ用の育成をしてきました。
クランコインもマコトではなくイオを交換しています。
このクランに居る上で、最低限のラインはあるのでしょうか。
また、ブラックリストは難しい問題です。
寝落ちで凸忘れなど、「自分のすべきことをしなかった」ことは咎められるべきですが、
「結果、クランで与えられるダメージが減った」まで行くと辛い。
僕はアリーナ用に育成リソースを温存するタチなので、それを有効に利用すれば、4,5凸分くらいは増えたはずであり、つまり4,5凸分が消滅していたことになります。
まぁ、出過ぎた質問だったね。出版社に同人誌を出していいか訊くレベルの愚問。
世の中には暗黙の了解があり、沈黙は金なのだ。ただ、俺は銀が好きだった。
まずは、ブラリについて。
俺は物事を突き詰めて考えることがある。その考えでいくと、「寝落ちで凸忘れ」が悪い理由は「ダメージの喪失」以外にありえないのだ。人間性とかルール違反とかは関係がない。功利主義的に見れば、ダメージがなくなったことが問題なのだ。
とすると、妙なことになる。
ダメージの出ない低レベルの人や、クラバト用のキャラを育成しない俺なんかは悪い、ということになってしまう。
もちろん、人情的な考え方をすればそんな道理はおかしいと一笑に付せる。でもその日の俺の心情は、この矛盾に耐えられなかったようだ。
また、「低レベルの人でも頑張っているなら問題はない。でもクラバト育成をしてないお前はダメだ」という回答も想定できる。「すべきことをしていない」のは俺なのだ。
でも、そのラインはどこにあるだろう。多少、アリーナ用にリソースを割いている人はいるはずだ。そのリソースをクラバト用に吐けばダメージは増えるはずだ。そこまで必死にならなくていい? なるほど。では、その線引は?
こちらも人情のカードを切るなら、俺がこのクランを嫌いなわけがない。メンバーにお世話になったことは数しれず、その恩恵に預かり続ける日々である。
だから、自分勝手な方針でクランに貢献しない俺は、いわゆる「甘い蜜だけ吸ってく奴」なのだ。
少しでも恩に報いる気持ちがあるなら、こんな質問をするより先にすべきことがある。
質問をしてしまった時点で、俺も上層部も要らぬ心象を抱くハメになってしまった。
加えてひとつ自衛をするなら、俺はできる範囲でクラバトに向き合っている。ダメージが出るよう模索はするし、必要なら凸の効率がよくなるようにラストアタックや持ち越しを申し出たりする。
ただ、より深いTLの研究はしない。そこまですると要領が悪くなる。なるべく軽い労力でなるべく大きいリターンを得るというポリシーの元では、譲れない一線だ。
また、適宜オート機能も使う(流石にフルオートではない)。これは純粋に操作をミスったり、本番でTLが安定しなくなる可能性があることからも譲れない。
しかし、クランの意向は「できれば全員がTLを組み、実行できるようになってほしい」である。
当然、凸は手動が推奨されている。
ここまで論を進めれば、自ずと分かることがある。
俺には、このクランの適正がないのだ。
先ほど、クランの会議通話を聞いていると、「上の部署にどうしても行きたい」という人がいた。まぁ、そういう人もいるだろう。このクランにはその熱意を抱くだけの価値がある。
「人員がオーバーしてしまうので、誰か他のクランに今月だけ移動してくれませんか」という話にもなった。
俺は声を上げなかった。まだ甘い蜜を吸いたかったからだ。
実際、そのこと自体に問題はない。「持っていない限定キャラを借りたいがためにこのクランに居たい」という意見は立派な主張であり、出向を断る理由になりますよと上層部は公言しているのだ。
これを聞いたとき、俺は言葉をなくした。あまりのホワイトさに、善性に、俺の妙な黒い意見を当てこすったことを恥じた。
恥じて、その上で、俺は声を上げなかった。
理由はたくさんある。ポリシーは譲れないから。マコトは★3専用30以上にはできない。イオ先生が欲しいから。甘い汁を吸いたいから。人見知りで、こんなミスをしたばかりで、とても出ていける雰囲気ではなかったから。要はビビリだから。
ビビリだから、質問に対するチャットも、回答を読んだフリをして、エモートで返したまま終わっている。