文学青年保存館

2023 7.25 ブログの更新を停止しました

よくある話だけど、できれば書きたくなかったよ

           f:id:Solisquale:20190910020311j:plain©アース製薬
Gは気づくとそこに居るのであつて、その行動様式にいささかの疑問を感じるわけであるが(なぜなら人類に見つかることは即ち死を意味する)、いざ目の前の壁に凛然と張り付く姿を見れば、およそ人間が取りうる行動はひとつだらう。

 速やかに排除すうr。

 脳の中にあるすべてのタスクをキル、音を立てないよう飛び退き、廊下に置いてある殺虫剤を手に取る。
 この状況で最も恐るべきことは何か? 敵を見失うことである。奴を取り逃がした部屋で通常の生活を営むことはできない。
 5センチに届こうかという大物である。
 自分の部屋のどこに、そんなサイズの侵入を許すスキマがあったのだろう。施錠は完璧だ、しかし押入れと換気扇が怪しい。いや、窓枠の下の壁紙が剥がれている。もしや壁が傷んでいる――?
 などと、考えている場合ではなかった。見れば、さっそく柱の物陰に身を隠そうとしている。
 即座に数秒間、スプレーを対象めがけて噴霧した。噴霧して、口を半開きにしたまま、 一も二もなく部屋の外に飛び出した。

 ここは経験が出るところだ。いかな即効を謳う殺虫剤であろうと、初撃が効くまでに5秒はかかる。この5秒を逃せば死ぬ。高い位置にいるが、低い位置にいるに対して取りうる行動はひとつなのだ。加えて成虫、かつ盛夏。飛行能力がないはずがないのである。
 
 扉をちら、と開けて様子を見る。甲は、にわかに震えはじめたかと思うと、ついに跳んだ。
 瞬間、扉を叩きつけるように閉じたのは、小5の俺のトラウマに起因すると思われる。
 しかし、飛ばずに、跳んだ。奴らは適温でなければ思うように飛行できないとされる。俺の部屋はエアコンが利いていたこともあり、完全な飛行には至らなかったのだろう。だが、跳ぶだけでも人は死ぬのだ。

 戦いは終わったわけではない。斃し、その亡骸を電動式・掃除用・吸引機のハラに収めるまで、故郷の土を踏むこと能わず。

 ソレは、まる2分かけて部屋の中を這い回った。
 のたうつ度に、ぺちゃり、ぺちゃりというおぞましい音が響いた。
 俺はひっくり返ったのを確認すると、リビングにある掃除機を持ってきて、すべてをなかったことにした。

 なにもなかったのだ。この部屋には俺しかいなかったし、とくに変なこともなかった。
 幽霊がいたとしても、大抵キレイ好きらしいし、人間の健康にはおよそ何の影響もないだろう。

 明日の予定に薬局に行く旨をねじ込んだ。
 築ウン十年の一軒家。ブラックキャップは、2箱では足りなかったのだ。