ウラブタの上

箱の中の神さま

カレーうどんにはネギをたっぷり入れる

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私小説

 ところであまり知られていないことだが実は痴漢をする人の5割は勃起していないらしい。ニュースサイトの精神科医の言を信じるなら、痴漢はストレスに対処するための適応行動のようなものらしい。
 学歴や社会的地位や既婚であるかに関係なく、人は誰でも痴漢という性依存症になりうる。
 であるならば、ヤフーニュースのトップにあった「まじで痴漢やめろ運動」は痴漢の特性をよく知った上でのキャンペーンなのかどうか是非知りたいところだ。
 依存症の男性がやむなく行為に及ぶ場合、そこでやめろと言われてもどうしようもないのではないか。
 無論、彼らを擁護するつもりはない。半数が勃起しないとはいえ半数は勃起しているわけで、というかエレクチオンに関係なく被害者が精神的ダメージを負うことに代わりはない。
 加えて言えば、今日がセンター試験の当日であることも重要だ。被害者の女子高生が声を上げれば、センター試験に支障が出るかもしれない。個人的には痴漢された時点で支障も何もないとは思うが、痴漢を試みる者がその行為に及びやすくなる日にこのキャンペーンを行ったことは意義のあることだと思う。

■硬派なラノベ

 などと、現実逃避をしている場合ではない。
 密に混雑した列車の中、俺の視界のスミに何やら怪しげな動きをする男がいる。
 会社員だろうか。スーツを来た男が、車内が揺れるのに合わせて肘を妙な高さで動かしている。よく見えないが、おそらくあの位置は密着した女性の胸の高さではないか。
 問題の女性は、後ろ姿しか見えない。さらさらとした髪が、混雑の熱で少しハネている。ブレザーの首元に、赤いリボンが見えた。おそらく女子高生だ。真冬にもかかわらず、コートは着ていない。
 そういえばJKは耐寒性能を犠牲に可愛さを追求する生き物だと聞いたことがある。それほど活発なら声を上げる気概もありそうなものだが、これまでのところそういう兆候はない。
 無理もない――今日はセンター試験の当日だ。自分の進路を天秤にかけられ、声を上げることができないのかもしれない。
 周囲の人は痴漢に気づいた様子はない。注意しなければ分からないような動きな上、そもそも本当に痴漢なのかどうか、俺もいまいち確証が持てない。
 俺が――どうにかするしかないのか。
 かくいう俺も受験生だ。面倒事は避けたい。だが声をかけるくらいならできるかもしれない。
 もし痴漢が行われているなら止まるだろう。良いことだ。でも勘違いだったら、男性の側に迷惑がかかるかもしれない。
 ただし、どちらにせよ、揉めてトラブルに発展したら時間を取られる。
 もっと言えば、俺だけの話では済まない。彼女も引き止めることになってしまうかもしれない。
 彼女もそれは織り込み済みで、この場を耐えてやり過ごすつもりなのかもしれない。
 それなら、俺が何かすることは、余計なお世話ということになりはしないか。
 思考が堂々巡りを始めた。ドアの上のパネルを見ると、次の停車駅まであと三分。
 ――停車駅?
 そうだ、やりようはある。次の停車駅で彼女を連れ出せばいい。
 その場合でも、俺が痴漢呼ばわりされるリスクは残るが……。
 あるいは彼女のほうから電車を降りるかもしれない。それで確認もできる。俺が降りるフリをして、顔色を見てからでもいい。時間に余裕はある。電車を一本遅らせるくらいなら大丈夫だ。
 必要なのは、小さな勇気だけ――。
 俺が、そう心を固めつつあったときだった。
 男の手が、動きを変えた。
 俺は信じられない気持ちでそれを見た。次の停車駅まで待つ? それでこの事態がどう解決するというのだ。
 残り三分。この三分で、一体どれだけのものが失われるというのか。
 俺の心に、昏いものが広がっていく。

 

 だめだラノベ風にならんw このままじゃNTRっぽい官能小説コースだけど。