文学青年保存館

2023 7.25 ブログの更新を停止しました

マイナンバーカードを受け取ってきた

 入口の脇にキンモクセイが咲いていた。
 俺と妹で立ち代わり匂いを嗅いでみたが、よく分からない。
「まだ時期が早いんじゃない」と言う妹に、そんなことある? の視線を送りながら、役所の中に入る。
 朝10時。人影はマバラだが、少しゴミゴミしている。
 さて窓口はどこだろうと探すも、見当がつかない。天井の案内板が多すぎやしないか。
 すると後ろから来た男性が、フロントの人に「マイナンバーの窓口はどこですか」と訊いた。
 俺達は耳聡く「あちらです」の声に反応すると、その方向にスタスタ歩いて職員に話しかける。
「はい、では受付を致しますね」
 オーマイゴッド。先を越したみたいになってしまった。
 窓口はひとつしかないみたいで、俺は気まずく思う。
 何も知らない男性は神妙に順番待ちを始め、図太い妹は事務手続きを進めていく。
 俺は顔に「ナンカスゴイ気まずいね」の表情を貼り付けて妹を見たが、
「なんで変な顔してるの?」その意図は掴めないようだった。
 ならば毅然と立つしかない。先に来たのは我らだ。瓜田に履を入れず。木犀に冠を正さず。
「顔芸やめなさい」

 カードを受け取ったあと、ホームセンターに立ち寄った。
 かつてイトーヨーカドーだったそこは現在、我が家の宿敵、その牙城となっている。
 自営業のウチが仕入れる建材を、より安く仕入れて売り捌く場所――。
「なろう系の主人公が目の前に現れたらこんな気分になるんだろうね?」
「いきなり変なこと言わない」
 とはいえ、敵情視察に来たわけではない。つーか視察しても勝てない。
 併設されている100円ショップにヌイグルミを買いにきたのだ。
 自転車を停めて、店の中に入る。
 広い。スーパー、薬局、本屋、ありとあらゆる店舗が軒を連ねている。ここはホームセンターとは名ばかりの、複合商業施設なのだ。
「俺が居ない間にこんなことになってたとはな……!」
 俺は魔王城を進む勇者の面持ちで妹にマスターソード 水を向ける。
「お兄ちゃんここ来たこと無いんだっけ」
 無い。というかイトーヨーカドーがいつ潰れたのかも知らない。
 家からは少し遠いし、用があるとすれば書店だが、もうAmazon以外信じられない身体になってしまった。
 滅ぼされた故郷 開発の波を感じながらしみじみ歩くと、ダイソーに着いた。
 妹に先導されるまま商品棚を練り歩き、ついに見つけた。

人形・ぬいぐるみ | 【公式】DAISO(ダイソー)ネットストア 

 Forest Friends ~森の友達~
 ダイソー自慢のぬいぐるみエリアである。手乗りサイズから抱きまくらまで、手頃な値段で取り揃えてある。
 今日はここに「新顔」を求めてやってきた。理由は特に無い。そこにあると聞いたから来た。我が家にはぬいぐるみを愛でる不文律があるのだ。

 最初はトリケラトプスだった。
 偶然ダイソーに寄ったとき、俺が悪ふざけでトリケラトプスのぬいぐるみを買い物カゴに投げ入れたら、そのまま買われた。
 そのビッグサイズを見つけたとの報告を妹から聞き、一目会いにやってきたのだ。
「じゃあ私お弁当のカップ探してくるからよろしく」
「任された」
 しかし、同じトリケラトプスの大を買うのも芸が無い。かといってペンギンは絶望先生みたいでイヤ、ネコは醜悪、恐竜は珍妙……。

 5分ほど悩んで、俺はウサギを選んだ。
 狙いすましたピンク! ふてぶてしい顔! カマボコみたいな腹! もうコイツしかない。
 俺は1000円のウサギをカゴに入れようとしたが、妙齢の女性の腕力によって力場が発生し、500円のサイズしかカゴに入れることができなかった。
 良いだろう。メイドインチャイナ(呪文)。この呪物を魔王城から救い出す!
 
 その後はスーパーでネギトロとドーナツを買って帰ってきた。
 ニトリでゴミ箱も買おうとしたけど良いのが無かった。
 そんな初秋。